2007/10/18

[実験屋日記] 日本人?アメリカ人?

短期の助成金の申請を書くのに、所長の舎医費大教授(仮)に推薦状をお願いしに行った。

実験で21時を回っていたのに、所長室というか教授室というか、開いた扉から明かりが漏れている。昼間はいろいろな人と会っていたりでどうもいつも活気のある部屋だ。これはちゃんとアポをとるか、それともコーヒールームでばったり遭遇するのを待つか... どうして推薦状をお願いしようか、とちょっと悩んでいたが、これはちょうどよい。オフィスに引き返して書類を持参し、恐れ恐れ、開いた扉から前室(秘書室)を通過、研究所のsanctum sanctorumに突撃を開始した。

トントン、今ちょっとだけお話しても、いいですか?ああ、もちろん、どうぞどうぞ。

あたり一面紙と本の山。パソコンはどこかに埋もれているのだろうけれども、見当たらない。そういえば学士の卒論研究室の教授も、パソコンは教授室の入り口近くに、申し訳なさそうに控えていた。机にパソコンを置くなんて、野暮ったいことはしない。僕がもしもこういうオフィスをもらえる立場になったら、きっと机には、真っ先に、大きな液晶を2台はすえつけるだろう。しかも、デスクランプのような腕にマウントして、机の真ん中に液晶が浮いているようなのがよい。今でも、小さなタブレットパソコンは、そのようにして使っている

もっとも最初に研究室を持ったら、教授室ではなく、蛸部屋みたいなところに座るのも、悪くはない。去年の夏居候した研究室の若いボスもそうで、その人の人柄もあるのだが、とてもいい感じのarrangementだった。「ボス」というよりは、「課長さん」とか、そんな感じだろうか?机が並んでいると、気軽にいろいろ聞いたりできる気持ちになる。博士論文の指導教官の師匠も、60代の今でも、デスクは研究室にあるらしい。もっともそのくらいの教授がそんなことをするのは、相当な異例だ。その祖父師匠はcontrol freakとしても有名で、学生やポスドクにとっては、いつも研究室にいられて、きっと、煙たい限りだろうと思う。



はなしはそれた。

それで、舎医費に、「これこれの金を申請しようと思うのですが、モゾモゾ、推薦状が、モゾモゾ...」 というと、「それはよい。ところで君は、国籍は日本なのかい、アメリカなのかい?」

ここでやっぱり、抜け目のないAmericanとしては、自己アピールの機会を逃すわけにはいかない。「いや実を言うと二重国籍なんです、自分ではどっちでもあるけれどどっちでもないようなつもりなんですけれど...」とかなんとか言いながら、さっき更新したばっかりの履歴書のコピーをすっと差し出す。自分でいうのもなんだが、ああ、いやだいやだ。

ドイツの研究費を支給する財団などの内部政治に、舎医費はとても通じている、と人はいう。

舎医費ははっきりとは言わなかったが、どうやら、日本人として出願するほうがだいぶ有利、と彼は思うらしい。日本人はどうやら、平均的な人間の質に比してドイツのそういう金への出願が少ない、おおむねそんなことらしい。逆に今回出すお金は、アメリカ人がほとんどという。「じゃ、君は、American/Japaneseではなくて、Japanese/American、そうしておこうじゃない。」多分、そうすることによって、お役人さんの帳簿上は、日本人枠に数えられる、ということなのだと思う。

推薦状ももらえることになったし、彼のいう口調と言外のニュアンスを聞いていると、生来の楽観も加わって、内々定くらいの気分になってきた。まあ、舎医費の推薦状は間違いないく、絶大な効力を発揮することだろう。それで落ちたら、ただの馬鹿かもしれない。

まあこういうお金は、機会があれば片端から申請すべきである。もしあたったら履歴にもなるし、自信にもなるし、給料アップにもなるし(≒帰りの荷物が重くなる...)、それに、それにどうせいいずれは論文にしなくてはならない話なんだから、いまから理路整然としたストーリー展開を考えておくのも、決して無駄にはならない)。幸いものを書くのは、それほど苦にはならない性格でもある。下手な鉄砲も、というやつだろうか、下手なつもりはこれっぽちもないのだが、まあ、客観的には、そうみられても致し方ないのかもしれない。

(2007.9.28記)

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