[本・一般] ●●●●○ Dreams from My Father (バラク・オバマ自伝)
Dreams from My Father: A Story of Race and Inheritance
Barack Obama
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民主党の大統領候補にほぼ決まったバラク・オバマ氏。アメリカ国民の義務として、まあ読もうと買ってあったが、仕事に関連したおもしろい本がいくつかたまっていたため、ちっともはかどらず積ん読となっていた。今回、一週間の休暇であてのない読書の時間がたくさんとれるのは、幸いなことだ。
Obama氏はケニヤ出身の黒人男性と、中西部出身の白人女性の間に生まれた。だが、諸般の事情で父親はオバマ氏のまだ幼い頃に国元に戻り、オバマ氏は母方の祖父母に見守られながら、女手一つで育てられた。アメリカでは人種関係の比較的温厚なハワイや、母の再婚に伴ってインドネシアでも少年時代を過ごた。本書ははじめにそんな経緯の伏線をを敷いてから、第2部では、大学卒業後にオバマ氏が地域活動家としてシカゴで貧困問題に取り組みながら成長してゆく経緯が描かれている。第3部の展開部では、初めてのケニア「帰」国と親戚一同を訪ねてのルーツ探しが描かれている。
さて、オバマ氏の本や演説については、はっきりと評価が分かれる。とてもインスピレーショナルだとする意見と、聞こえはよいが中身は空っぽだとする意見。僕はどちらかというと前者だったが、これはアメリカンドリームへの陶酔度と関連があるのかもしれない。いずれにせよ、アメリカ人魂の琴線を絶妙にはじく、オバマ氏である。
空っぽ、というのはわからなくもない。オバマ氏の演説などを聴いていると、確かに、具体的な政策は少なく、ただ、若さ 1というか、理想主義的な真剣さだけが全面にでてくる。それをもって「空っぽ」という人は、まず、彼が政治家の仮面を一皮むけば実に堅実な公僕としてキャリアを積んできたということと、そしてまた、「アメリカ」というのからしてそもそも、実態のない理想であることを解すべきであろう。深く文化や風土に根ざしたものではない。考えようによっては、そういう深い根に最も近いのは、クリントン夫妻ががむしゃらにしがみついている、既得権益のようなものかもしれない。あるいはブッシュのようなobligeなきnoblesseかもしれない。
アメリカの深い没落はもはや、大統領すら止められないかもしれない。経済、医療、教育、社会保障、あらゆる制度の根幹から、一定の基盤であったヨーロッパ文化が失せ、根無し草となった孤児であるアメリカ社会には、一から自分を作り直すしか活路はないのだ。
そんな歴史の転換点で一縷の希望をもたせるのは、70過ぎのMcCainでも、怒れる60年代のなれの果てのClinton女史(今や社会に内在する不条理ではなく、社会の自分に対する不条理「今度はワタシの順番ヨ、あなた譲りなさい!」)でもない。土地や風土の助けがない中でも、必死に模索しながら、様々な文化をつなぎ合わせて自我を築いてきたObama氏こそ、根を失ってさまようアメリカ、ひいては先進世界の、最後のホープかもしれない。(2008.5.10記)
1. 氏は1961年生まれ
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