2008/05/28

[旅日記] 小旅行2008 ベルリン(b-3) 地下鉄オペラ

今回の日帰り旅行の直接目的は、これ。何かしらのエベントがないとなかなか、実験を休む気にならないのは、困ったことだが。地下鉄オペラ、魔笛(Die Zauberflöte in der U-Bahn)。Reichstagのすぐ横に、未開通の地下鉄駅があるのだが、その駅構内で魔笛を上演している。そもそもアメリカのラジオでこの話を聞いたのだが、その筋では相当話題のプロダクションらしく、上演期間も延長になった。

未開通のベルリン地下鉄、Bundestag駅





ところでベルリンは、世界でも有数の音楽都市である。というのも、東ベルリン・西ベルリン双方に国家の威信をかけて睨み合っていた文化団体が、基本的にはそのまま、ひしめき合っている。常設のオペラ座だけでも3つ。こんな都市は、ニューヨーク(異常)・東京(もっと異常)くらいしかないだろう。(東京のプロオケストラってざっと考えただけですぐに片手に余ってしまう。異国の音楽に陶酔している人々が、それだけたくさん、いるのだろうか?)

で、せっかく近いのでそのうちラトル・ベルリンフィルでも聞きに行こうと思っていたら、つい一週間前に、火事で「カラヤン・サーカス」の屋根が半分焼けてしまって、当面フィルハーモニーホールでの上演は中止だそうだ。Carpe diemといやつ、楽しめるときに楽しんでおくべきだ。

Reichstagの屋上からみたTiergarten。中央右よりに、半分焦げたベルリン・フィルハーモニー・ホールが見える。





で、肝心のオペラ。

U-Bahn Bundestag駅に入ったすぐのところ。まだ架線などは張っていない。奥の青い垂れ幕の向こうがホームの舞台部分で、舞台に続くホームの端と、両側のバルコニーみたいなところに客席が設けられていた。


舞台。ほとんどの登場人物が、駅の人々に置き換えられている



この演出では場面設定をすべて、地下鉄の駅に置き換えてある。たとえば、一番はじめに王子タミーノが大蛇に追われて入場するシーン(「♪助けて、助けて、死んじゃうよ~」)では、時代衣装のタミーノが、蛇の代わりに暴走する地下鉄電車に追われて、線路を花道に入場してくる。タミーノ一人だけ、時代衣装なのだが、なぜかタイムスリップしたという設定らしい。で、3人の侍女が大蛇を退治するところでは、3人の地下鉄の掃除おばさんたちが、モップで暴走列車をショートさせる。パパゲーノは駅のホームに住むフリョー、奴隷長は悪徳警官、3少年はスケボーやスクーターに乗っている、という具合。

始終こんな感じでアダプトされていて、台詞はもちろんのこと、歌詞もだいぶ替え歌になっていたようだ。とくに道化役のパパゲーノ。替え歌のひどい部分は、歌詞がわかるようにゆっくりと歌っていたようだが、それでもドイツ語がほとんどわからなかった、残念なり。アンゲラ・メルケルがどうのこうのとかいうジョークなんかもあって、まわりはみんな笑っていた。

で、言葉がわからないせいもあるのかもしれないが、最初は地下鉄ドラマとしてある程度筋が通っていたものが、途中からだんだんつじつまが合わなくなってきた(もっとも魔笛自体がある意味ストーリーの脈絡に欠いている気もするが)。

あと、マルチメディアも凝っていて、場面ごとに駅構内の壁・床・天井全面に、いろいろな絵が映写された。たとえば、フリーメースンの司祭サラストロが登場する場面ではこちらをにらみつける眼、あるいは、パパゲーノとパパゲーナの求愛の二重唱では、コチョコチョ泳ぎ回る精子などが、空間を埋め尽くす。

全体としては、まあそこそこだった。企画としてはとてもおもしろいのだが、音楽がちょっとイマイチ。第一、地下鉄の駅の音響なので、オケも歌手も拡声機つき。オペラなんていうのは本当は声のアクロバットのような、肉体的な営みなのだと思うのだが、まあ、地下鉄の駅では致し方あるまい。あと、連日連夜の公演で、ダブルキャストとはいえ疲れが見え隠れ。3少年なんかはもう、和音を当てたときにブラヴォーしてあげたいような惨状で、夜の女王の超人コロラチューラ(x2)も、それっぽい音を出すので精一杯。



ちょっと余談で夜の女王のアリアについて。インターネットで予習していて恐ろしい演奏を見つけてしまった。今時はいろいろなのを簡単に聞き比べられるので、何とも便利だが、以下のは本当にすごい。単純に音を当てるとかそういう意味では、まだもう少し上手があるのだろうけれど、超人間的な音を発している最中でも、超人間的な怒りをradiateさせ続ける演技力も同時に、というのは、なかなかないだろう。大抵の「女王」は歌うので精一杯、声帯のあたりに全精神を集中させているのが見えてしまって、劇としては興ざめになる。





話を地下鉄オペラの戻す。替え歌・場面設定の変更・音楽、すべてに渡って、オペラ・ブッファというのを前面に出しすぎていて、若干僕の趣味とは符合しなかった。というのも、モーツァルトの道化の裏には常に、特有の繊細な悲哀みたいのがつきまとう気がするのだ。

しかしまあ、言語としても今のドイツ語とほとんど代わりがないようだし、ドイツの国民的オペラとして、まだ生きた芸術なのだという印象を受ける。たとえば歌舞伎(「ジャパニーズ・オペラ」)とかに比べると、違いがはっきりするのでは。「地下鉄歌舞伎」なんていうのは、どう考えても無理。ほとんど知らないのだが、改札口で勧進帳、とか?でも、歌舞伎とオペラの全盛時代はそう変わらない訳で、その点、今回の地下鉄オペラは少々筋などに無理があるにせよ、現代に合わせてもまだちゃんと客から金を取れる、というだけで脱帽ものといえよう。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

It seems like you're having fun ne ;-)!!!
私も留学したい…。

いつ帰ってくるの?

のり