2007/03/28

[新聞] Obamania (2) 宗教ことばの革命者

前回より続く)

Obama's Eloquent Faith
By E. J. Dionne Jr.
Washington Post, Friday, June 30, 2006

米国共和党はここ10年以上にわたり、「宗教票」を手中に収めてきた。主に南部などに多い、保守的プロテスタント・キリスト教原理主義者たちだ1。彼らはおもに白人中産~貧困層であり、排他的(対イスラム的?)jingoismなどで煽動され、これがより裕福なintellectual層(多くは無宗教)に対する不満の捌け口となってきた。

この運動の上層部が矛盾に満ちていることは、最近になって漸く表沙汰になってきた。(A) 彼らによると、同性愛者は地獄の烈火にさらされ、地上でも悪の権化だそうだが、同時に、この運動の上層部が相次いで同性愛関係を暴露されて失脚している。たとえば有名なキリスト教原理主義団体の長をつとめていた牧師は、男娼に告発された。(B) また、ある保守系共和党議員などは少年愛が発覚し、特に波紋が大きかった。(C) あるいは、同性愛ではないが、Clintonの不倫弾劾の旗頭となっていた保守キリスト教系の当時の下院議長は、その弾劾中、自らも不倫を侵していたことがつい最近判明した。(D) また別の話では、有名な保守系評論家が、麻薬使用者を罵倒していたにもかかわらず自らも鎮痛剤中毒であった、というのもある。Hypocricyの例は後を絶えない。

こういう意味で保守・キリスト教原理主義運動が多大な問題を抱えていることが明るみに出たこともあり、去年の総選挙では民主党が大勝を収めた。最近では、保守的キリスト教徒の中でも亜流であった、環境活動家(「神の創りたもうたこの地球...」)や人権活動家などが勢いを増してきて、この運動も若干変わってきているともいう。にもかかわらず、政治に「宗教ことば」が持ち込まれたことだけは、尾を引いている2



「宗教ことば」の重要性は高いが、民主党政治家は総じて宗教に疎い。当時大統領候補であったHoward Dean氏が新約聖書の福音書のうちで最も好きなものをあげよと問われ「ヨブ記」と答えたはなしなどは、有名である3

ところがObama氏は違うらしい。

Obama氏はHarvard Law School卒業後、Chicagoで宗教系の地域社会改善活動に携わっており進歩系のキリスト教徒だが、Washington PostのDionne氏によると、「宗教ことば」の使い方も革新的であるという。(A) たとえば、政治家が「宗教ことば」を語るときにいままでみられなかった、自分の信仰に対する懐疑心についても語っている、という。(B) あるいは、信徒側からみた政教分離の意義について、はっきりと語っている、という。(C) また、進歩的なキリスト教徒の大きな懸念の一つである、社会格差の拡大についても、その問題解決においては、民間の宗教団体なども、政府とは違う役回りではあるが果たすべき役割がある、と明言している。(D) そして、なにより、宗教を政治の駒に使うような政治家を強く弾劾しているという。



Kennedyは初のカトリック教徒大統領として、政治的判断をローマに仰ぐようなことは断じてない、という点を強調して止まなかった。時代を経た現在、George W. Bushは教皇はおろか4 、神に直談判で政策を決定していると公言してはばからない。Obama氏の提示する宗教性は、こうした時代の流れをふまえた上で、それに抗う戦略性に富んでいるものと思えてならない。

次回に続く)




1. ここで注意を要するのは、比較的保守的な教えも包含するカトリック教の信徒は一般的に、民主党支持者が多い。これは、社会平等や貧困者問題に対する考えが一般的に左寄りだからとされる。また、黒人系のプロテスタントも、公民権運動の時代からの流で、民主党支持者がほとんどである。

2. 連邦議会で無宗教を公言している議員は現在、たったひとりだけだという。

3. もっとも、そもそも民主党のHoward Deanが保守キリスト教票を獲得できるわけはないので、この一件の影響はせいぜい、教養のなさと政治家の口先八丁を露見させたという程度にとどまる。

4. もちろんBushはカトリックではなくBorn-Again(再生派)の南部プロテスタントなので、教皇とは関係ないし、神秘体験などを通した神との直接的なつながりを重視する教義に従っている。




参考リンク
宗教に関するObamaの演説(大統領候補ページ)





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