2008/06/07

[ドイツより] Lange Nacht der Wissenschaft

「夜更けの科学」てな感じか。Magdeburgの街興しの一環で、街中の科学施設や大学の各学科・専門学校(Fachhochschule)の各学科が一斉にオープンハウスをして、市民がみんなで循環バスに乗って見学する、という企画。夏に入って夜は10時近くまで薄明るいのだが、「Lange Nacht」は先週土曜日の、18時から午前1時まで実施された。この企画、はじめて3年目らしい。人生最後のMagdeburgかもしれないし、研究所で説明係を務めている同僚たちにわびを入れて、よその研究所を回ることにした。

で、なにより感心したのは、秀才少年からちょっとビールくさいフリョー君たちまで、あるいは老夫婦・高校カップル・学齢前の子供連れなど、老若男女実にいろいろな人がみな興味深そうに科学者たちのお話に聞き入っているということ。説明する側も皆、これも科学の重要な社会機能である、ということをわきまえて、サービス精神旺盛だ。

Fraunhofer通りとHeisenberg通りの交差点。もちろんGüricke通り・Einstein通り・Kepler通り・Lebniz通りなど各種あるし、研究所から南に10分ほどジョッギングした団地には、道が全て惑星の名前を充てられている一角などもある。察するにたぶん、統一後、Karl-Marx-Strasseの類を改名する際に、科学的テーマを採用したのだろう。





そもそもMagdeburgは東ドイツ時代は大工業都市だった。プロイセン時代以前はElbe河貿易の要衝。Sachsen-Anhalt州の州都でもあるので、巨大なOtto-von-Güricke 1大学があるが、
伝統的に学問の盛んな町ではない。東ドイツの学問都市といったら、Lepzigとかが本流であろう。

でも東西統一後の経済混乱と国営重工業崩壊のなか、国策の意味もあってか、西ドイツの研究財団は一斉にこの街に、現代学問の要請に応えるような研究所を新設した。物価も安いし、新首都ベルリンからも特急で1時間ちょっと、地の利もよい。我がLeipniz協会の脳生物学研究所のほかにも、Max-Planck協会の複雑システム研究所、Fraunhofer協会の工業システム・自動化研究所などもあり、国策なのか財団経由のサポート以外にも連邦の科学研究費のあたりがよいらしく、大学の各学科含めて、総じて研究が潤っている。



Max-Planck複雑システム研究所。Max-Planckはさすがに、金持ちだ。



メタン燃料電池で走る、改造リモコン車。

レモンの酸に銅とか亜鉛を突っ込んで電池にする、酸化還元電位の実験。こんな教科書の化学なんて、彼らの研究とは直接関係ないはずだが、もちろん研究室に転がっている資材で簡単にできる実験だ。そういう気の利かせ方って、科学には欠かせない気がする。

醗酵器で微生物の人口動態を追う実験。元々農学部の出身で醗酵とかもやる学科にいたので、こういう実験にはどことなく郷愁を感じるのだが、面白いので試しに白を切って「これは何の役に立つ実験なんですか?」などと、説明係のかわいい大学院生をいじめてしまった。イヤな奴。

実験的な、化学プラント





Fraunhofer研究所の隣にたっている、工業プロセスなどの研究施設。どうやら大学や研究所の共同施設らしい。色も形もおかしいが、ここで実験したことのある同僚によると、電磁遮蔽がとてもよくつくられていて、一歩はいると携帯はもちろん通じないらしい。



一番おもしろかったFraunofer研究所。Fraunhofer協会はそもそも、産学連携や実践科学が目的らしい。で、残念ながら写真撮影禁止だったが、最近Deutsche Bahn(JRみたいなやつ)のBerlin中央駅に納入したという自動窓ふきロボットの見本や、Siemensと共同でやっているというRFID(電磁的なシール)による飛行機の機内食・商品管理システムの見本や、下水管自動掃除ロボット、飛行機の機体検査ロボットなど、ドイツ語がわからなくても興味深かった。



わが研究所。右端は我が家(ゲストハウス)。事務からのメールによると、今年は見学者が1000人近く入って、大盛況だったらしい。あまり見た目はよくないいわゆるDDRbau(東ドイツ式ビル)だが、壁にヒビが入っている以外は、意外と機能的ではある。光学計測をしていると何より感じるのだが、3階でも床振動が殆どない、頑丈な作りである。でも来年着工で立替、さらには新棟も建設されて、床面積は倍増するらしい。また2年後に来てしばらく年貢を納めたら、うまい具合で小さな研究グループくらい、持たせてもらえないかなぁ。



で、もしも2年後にこの地に戻ってきたら、Lange Nachtのときに、どこかでイカかアメフラシかコオロギかなにかを買ってきて、電気生理学と光学イメージングの展示をしようかと思う。現代の神経生理学は、前世紀半ばの無脊椎神経系の生理学に基づいており、本質的な哲学については基本的に変化はない。最近はやりの神経回路の集合活動などの話だって、無脊椎で研究されていたものがそもそもの原点だ。そして、いくら市民の科学的意識が高いMagdeburgとはいえ、哺乳類実験の展示は難しい。部門の同僚は、ラットの行動実験の展示をしていたが、それくらいが精一杯。それができるだけでも、この街の市民の科学的な理解度の高さが伺える。

西ドイツ出身の小ボスの腐乱苦(仮)と雑談していたら、Magdeburgには、自らが育った60年代の西ドイツにあった、科学に対する一般市民の期待と興味がまだ息づいているという。西ドイツやアメリカ、日本は、すでに豊かになりすぎたのであろうか。それにしてもこのフランクの観察は、じつにGenau(≒そのと~り)である。



1. 真空の発明者、ということになっている。馬が向かい合って真空の半球を引っ張って、真空の力を示した公開実験は、実に有名だ。 馬←(|)→馬

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