2007/08/11

[実験屋日記] Macaca猿は「真っ赤っか」?

普通実験でお手伝いしてもらうお猿さんの多くは属名でいうとMacaca、マカク猿、というやつだ。

一番多いのがMacaca mulatta(アカゲザル)で、もとはインドや中国にいる猿。このM. mulattaは気性が荒いので有名で、僕も昔おつきあいしていた頃は、危うくかまれそうになったことが何度かある 1。ただ、現地では洗濯物や農作物を荒らす害獣なので、実験猿としては抜群の人気である。ゲノムも一通り解読が完了している

他には、より賢く穏和であるとされるM. fuscata(ニホンザル)や、M. fascicularis(カニクイザル)なども出会いが多い。



Macacaは旧世界猿だが、最近ではコストのためか新世界猿でより小さい 2Callithrix jacchus(マーモセット)などが人気急騰中のようだ。



ところで先日日本人の知人より、Macacaの語源が、日本語の「真っ赤っか」であるという説を聞いた。アメリカ人はこういうのが大好きで、上手く仕立てたら研究のプレゼンの枕にもなりそうなので、ちょっと調べてみた。

ところが残念。たしかにこの説を書いた日本のホームページはあるものの(英語では検索されなかった)、どうやらこれは嘘で、言語的ナショナリズムのなせるいたずらにすぎないようだ。

辞書にあたったところ、Macacaはもとはポルトガル語で猿という意味(男性形はmacaco)、そしてこれはもともとガボン・コンゴあたりの現地語のkaku(マンガベー)ということば(複数形makaku)に由来するとのこと。(Merriam-Webster Collegiate Dictionary, 11 ed.)

あるいは、アフリカの奥地からタミル語を経由して日本語に、なんていうのも、話に出来れば、面白いかもしれないが。





1. このMacaca mulattaは、Herpes Bというウイルスをもっていることがあり、猿どもは平気だが、かまれてヒトに異種感染すると、致死性の脳炎のおそれがある。おそろしいことに、Georgia州の猿学で有名な大学では、猿の小便が撥ねて目に入った以外は全く被爆歴のない技官が、このウイルスでなくなった。だから、うちの大学では猿とのおつきあいの時は、半導体工場のような格好をしなければならない。ことになっている。

2. おつむもより小さい

(~2007.3 記)

1 件のコメント:

Mark Waterman さんのコメント...

>言語的ナショナリズム

なるほど面白い命名だ。そういえば同様な Japanese nationalism はありますね。
アメリカのお店では、白菜すなわち菜っ葉を napa とか Japanese cabbage といって売っていますが、Napa Valley の Napa とは関係がない。また、お坊さんの袈裟と神父様の cassock の関係もおかしいなど。そういえば、ラテン語による2名法で命名したのはニホンザルが最初ではないですよね。その時点でおかしいと思わなければならなかった。私も今まで「真っ赤っか」と信じていました。


ついでですが、英語の発音にも「地域ナショナリズム」がありますね。ボストンで生まれ育った Gawky さんは(固有名詞としてか)ガァーキーと読んでくれと言いますが、まだアメリカ英語の標準的発音はグォーキーのはず。

しかし、それは、Mary, merry, marry を正しく区別して発音できる人のレベルであって、訛があるボストン子もカリフォルニア人も一般的には区別できないそうだ。因みに、ある日本の英和辞典をみたら、この三つの単語は同じ発音と書いてあった。ボストンかカリフォルニア育ちのアメリカ人が協力したのかもしれない。実際この区別は gawky の発音ほど難しくはない。区別できなければアナウンサー失格は間違いない。

(念のため日本の読者に:標準発音はそれなりの場では必要な心得ですが、街の中では意外に通じません。私の名前 Waterman を先日のレセプションで標準発音で告げたら、受付のおばさんは私の名前がないという。そんなはずはない。そこで面倒なので「ワラマン」と言ってやったら、「あっ、ありました」。時々、藁をもつかむ思いでそのように発音しますが、「それなりの場」では決してしないようにしています。)

MWW