2007/02/17

[本・一般]●●●●● 挨拶はたいへんだ

Cover picture挨拶はたいへんだ
丸谷才一

[www.amazon.co.jp]


最近どうも寝付きが悪い。

一つには東海岸の異例の寒波で、朝、布団が恋しく、ついつい寝過ぎてしまい、夜になっても眠くならないと言うことがある。もう一つは、現在ちょっと実験が好転しつつあり、そういう状況下だとつい興奮してしまい、無心に床につこうとしても、<次の実験の計画>や<どこぞの研究室にscoopされてしまうのではないか>という不安などが頭を駆けめぐって、いつまでもあたまがshut downしてくれない。そこへ、正月帰れないことの憂さ晴らしに箱いっぱいの本を取り寄せた、とくると、結末は自ずと見えている。あと、昼間、英語の論文ばかり読み書きしていると、日本語脳のほうがやっかんで「使ってくれ」とうるさい。

本書は、いろいろな会で丸谷氏がのべた挨拶をまとめたもので、ごくさらりと読めてしまった。上手い。巧さを3点にまとめてみた:
1. 挨拶の趣旨の見立てが、その会の趣旨に即しており、的確である
2. 挨拶の趣旨を面白く展開するだけの学識や懐の深さがある
3. 挨拶の展開を的確に聴衆(読者)に伝えるうえで、文章の運びが巧みである

味のある挨拶が出来るヒトに、いつかはなりたい。


追、最近ことばやlanguageを大切にしようと意気込んでいるが、ついでに、その点で印象に残った一節を、備忘録として、以下に書き留めておく

 作曲家の團伊玖磨さん、柴田南雄さん、小倉朗さん、俳優の芥川比呂志さん、かういふ方々は随筆がたいへん上手です。それから、以前は大藏省の事務次官で、後に東京證券取引所の理事長になつた、そして、今は何をなさつてるでせうね、谷村裕さん、この方の随筆もいいですね。これは随筆ではありませんが、味の素の名誉会長の歌田勝弘さんがゴルフでホール・イン・ワンをして、お祝ひの品を知り合ひに送つたときに添へた、そのときの情景を書いた手紙がなかなかの名文で、素人がこれだけ書けるのはすごいと感心したことがありました。
 そんなことをいつだつたか、吉行淳之介さんに話したとき、吉行さんは、
「ウン、一かどの人はね、みな、一かどの文章が書けるんだよ」
 と言ひました。
 まことに含蓄の深い台詞でありますが、これを解説すれば、こんなことになるのぢやないでせうか。すなはち、文章といふのは言葉を組み合わせて使ふ技術である。そして言葉といふのは、人間がものを考へ、感じ、それを表現するための基本的な道具である。その意味で、言葉を組み合わせる技術は、たとへば、唄を歌ふこと、踊りを踊ること、ボールを投げたり、走つたりすること、などよりももつと直接に、そして密接に、人間の精神活動に結びついてゐる。それゆゑ、一かどの人はみな文章に長じてゐる、といふことになるのでありませう。(「人間の最も基本的な道具:『文の甲子園』第一回授賞式での選考委員祝辞」より)

1 件のコメント:

devenir さんのコメント...
このコメントはブログの管理者によって削除されました。