2007/01/21

[本・一般]●●●●● 思考のレッスン

Cover picture思考のレッスン
丸谷才一

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本書は夏の日本滞在中に立ち読みして買った。インタビュー形式で、丸谷氏が文学者としてのルーツ、姿勢、方法を述べている。丸谷氏が実にいい味を出しているので、別に説教くさくはない。むしろ、日本的な、格好よい学問の型を感じる。

夏に読んだときは、引き合いに出される文学作品がいちいち分からなくて、若干藪漕ぎのような読書になってしまった。今回は、適当に流れを楽しむことができた。

文学と生物学はだいぶ隔たりがあるように思われるかもしれないが、「長大なテキストをある視点から読み解いて、その視点から見たほかのテキストとの関係などに関して学問的なストーリーを紡ぐ」という基本方針は共通する。ある側面からみて、生物学は文系の学問だ、といわれる所以である。

このことを解する「生物学者」は、実をいうと少ない。文学では、単語の使用数などのデータを解析するのみの「文学」があるということを以前耳にしたが、生物学に話を転ずると、今やむしろ、こういう「生物学」が大手を振って主流をなしている。全体的な体系を学ばなくても、ある臓器だけとにらめっこさえしていれば(ひどい場合はある培養細胞とにらめっこさえしていれば)「生物学」ができる、という考え。あるいは、「動物モデル」「動物モデル」と呪文のようにとなえながら、どの動物も一緒であるとあたまから決めつける考え。それは文学にたとえれば、<文学作品全体を読んだこともないくせに、限られたページの、しかも上っ面の字形だけを追っていさえすればよい>という方針や、あるいは、<どの文学作品も一緒だと決めつけて、一冊しか読まない>という方針などと比較できるだろう。

こう比べると、ナンセンスであることは明白なのだが。

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