2007/09/17

[ドイツより] ビタミンB

BはBeziehungen。つまりコネ、関係(グァンシー)、connections。

ドイツの学問でいいポストを得るには、「ビタミンB」が必要なのだそうだ。どこでも、何に関しても、きっと、そうすけどね。






ちなみに昨日、社会学の古典である(らしい)Mark Granovetter氏(1973年)の「The strength of weak ties(弱い紐帯の強み)」というのを読んだ。要するに、「強いtie(友情・親戚そのほかのコネ)はredundancyが高いので、情報伝播力は弱い」という、一見逆説的な構造である。

たとえばある個人egoにとても近しい友人が二人いたとしたら、その友人二人がお互いにまた友人である可能性はとても高い。よって、その友人二人はお互いに直接情報交換をする可能性も高いので、egoを介しての情報伝播は、意義が低い。強いtieによる情報伝達は近親姦的に閉じたグループの中をぐるぐるめぐるだけで、かけ離れた人間に情報を伝播する力は、弱いという。

逆に、弱いコネ、たとえばegoの職場の知人と、egoの近所の顔見知りは、お互いに直接知人である可能性はとても低い。よって、弱いtieではありながら、egoを介した情報伝播の意義は高い。弱いtieの方が、ほかに接点のない人を橋渡しする可能性が高いので、弱いつながりであるにもかかわらず、一歩下がって全体の情報伝播を見渡すと意義が高い、というのだ。



脳科学の実験屋が、何でこんなのを読むか。

あまり大上段に振りかぶって、構造、構造、というのもなんだが、実を言うと、このGranovetterの議論はほとんどそのまま、脳神経系の構成に当てはめることができる気がしたのだ。

もちろん、脳神経系における強いつながりの意義は否定しない。

たとえば、釘を踏むと痛みは痛み神経を介して直ちに脊髄の背側部に伝播し、脊髄の中の「強いつながり」を介して脊髄の腹側部に伝わり、反射的にある筋は緊張しある筋肉は弛緩し、結果として釘を避けるように足を胴体に引き寄せる。大脳を介した「弱いつながり」によって自分が釘を踏んだのだ、という認知が行われ、さらに足の裏の怪我を目で確認したりするのは、これらがすべておきた、はるか後である。

あるいは、急に視界にボールが飛び込んできたとしよう。人はほとんど大脳とはお構いなしに、身構える。ここらの強いつながり(上丘あたりの回路?)も、ないと困る。これに関しては、大脳がかかわっているという話もあるにはあるが、若干嘘臭い。というのも、脳幹の強いつながりの付帯兆候が大脳にて観察されてもおかしくはないし、逆に、大脳を刺激することでこの強いつながりを誘起できたって、大脳が強いつながりに参加しているとは限らないのだ。



僕が興味を持つのはおもに大脳という器官。脊髄反射のつながりなどに比べると、大脳皮質内のつながりというのは、圧倒的に弱いものである。視床と大脳皮質をつなぐとされる比較的強い相互のつながりにしたって、それ自身は自己完結的に強くても、大脳の多要素間の連関力は弱い。

つまり、
『大脳とは、「弱いtie」の力を具現化した機構と捉えられる』
と思うわけだが、この議論を論文に書くのは、若干難易度が高い。ただ、この話の進め方は、現代の脳生理学が直面している壁の正体を、見事に明るみに出すものだと思う。

ここ半世紀の感覚生理学によって、末梢感覚器官(たとえば眼)から大脳の一次感覚野(たとえば一次視覚野)にいたる、大脳以前の比較的「強い」つながりの生理学は、ほとんど尽くされている感がある。その話の進め方をそのまま延長して高次感覚野や統合野などといった脳内の弱いつながりの話に敷衍しようと、世の中の大半は試みているわけだが、それは、ちょっとピンボケかもしれない、と思うのだ。

そして、実を言うと今抱えてるデータが、間接的にではあるが、こういった「弱いつながり」の話にちょうどうまくはまるので、ちょっと軽いbullshittingに挑戦してみようかと思う。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ガキさんいつもおもしろいこというけれど、これ、すごく面白いですよ。

忙しそうですけど、帰ってきたら連絡くださいね。一升瓶かってまってます~

匿名 さんのコメント...

私もこの人の論文を解説した記事は読んだことがありますが、なるほど、最もだと思いました。

自分が職場(所属する組織)を変えようとするときに、利害関係なく相談したりできるキーパーソンが、普段あまり身近でない(→しかし数年に一度くらいは連絡する関係)人であることは良くあることです。

この論文が脳科学(生理学)分野でも有用なら、大変興味深い。社会学と脳科学(医学)がリンクするのか。

devenir さんのコメント...

蕩尽亭です。あいかわらず、ここのブログはTBができないみたいですね。

で、今回の記事をたいへん興味深く読み、刺激を受けました。自分のところに感想というか、思いついたことを書いておきましたので、ナンカイかもしれませんが、まあ読んでみてください。弱さというのは私の言葉で言えば、潜在性ということです。

目下、毎日フランス語作文に追われている。というか、興に乗って長く書きすぎたのを縮めねば。。