2006/06/17

[実験屋日記]今日もまた、中国留学

私が大学院生として属している研究室は、アメリカ東海岸にあって中国である。先生、二人のポスドク(1)、院生二人の小さな所帯だが、私をのぞいては全員 中国人。いわゆるABC(2)ではなく、正真正銘FOB(3)の本土中国人である。研究室の公用語は普通話で、もし英語が聞こえたとしたら、私に何か頼み ごとでもあるのだろう。外から電話をかけてくる人すら「Hello」と受けても、「○老師在嗎?」などととくることがよくある。

別段彼らを責める気はないし、気持ちはわかる。ポスドクの一人などは英語も不自由なので、特にいたしかたない。それに私も、日本ですごした教養時代、だい ぶ中国語はとった。実を言うと、教養の外国語を選ぶときも、生物系研究の世界で中国人の台頭が著しいことからこういう状況も念頭において選択した、という のは事実だ(というとなんだかキチガイみたいだが、あたらずとも?)。あるいは、鶏か卵か、イ尓好・謝謝がわかったくらいで調子に乗って、こんな濃~い研 究室にもあえて身を置くという無謀を冒したのかもしれない。いずれにせよ、ここの研究室にきて1年強になるが、毎日ヒアリングの特訓で、話のあらすじくら いは大抵わかるまでになってきたし、直接私と話すときはみな英語を使ってくれる。

といっても、時々、怒濤のような孤独感が押し寄せてくる。彼らとて同じ言語で会話している同志、全員が全員仲が良くて順次万端というわけではないようだ。でも、Homo linguisticusたるもの、本能的な疎外感は否めない。

私はもともと広義の日系アメリカ人で、アメリカにくるのも留学という感じでもなかったが、そんなわけで、今日もまた、中国留学である。



1. Post-doctoral fellow(博士研究員)。大学院を卒業してから、自分の研究室を旗揚げできるまで(あるいはできないとわかるまで)、大学院生に毛の生えたような身分で研究室を流浪する。
2. American-born Chinese
3. Fresh off the boat、新移民をこう呼ぶ。アジア系にもちいられることが多いように感じるが、定かではない。やや侮蔑的な意味をも有しかねない表現だが、キイロいABJが使う分には問題なかろう。

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